p.13-5   自分で判断、行動できるように・・・
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■混乱のきわみ
 副読本には、「放射性物質を扱う施設で事故が起こり、周辺への影響が心配されるときには、市町村、あるいは県や国から避難などの指示が出されます。」とあります。
 しかし福島原発事故の際には、国の機関はSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)を用いて高線量汚染の危険にさらされる地域を把握していながら、それが市町村に伝えられることはありませんでした。 福島民報アーカイブ 2011/12/11
ヨウ素剤の配布ですら、情報が混乱して肝心なときに住民が飲用できなかったことも報告されています。 福島民報アーカイブ 2012/03/05
 それどころか、「原子力推進組織」に与するマスコミの中には、市町村が国の指示を待たず独自にヨウ素剤を配ったことを問題視しました。 読売新聞 2011年3月21日

 福島原発事故の際には、安全神話にどっぷりつかっていて「予想外の出来事」故に、情報は混乱し、ほとんど何の備えもしてなかったことが露呈し、住民は文字通り路頭に迷いました。事故後の現在、その反省は活かされているでしょうか。やはり、「自分で判断し、行動できるように」しておかなければならないようです。

■「正しい」備え
 万が一の事故に際して、自分で判断、行動するためには、常日頃から放射線や原子力施設についての正しい知識を学び、事故などに関する正しい情報に接し、それに基づいて適切な避難準備をしておく、といった、一連の備えをしておく必要があります。
 現在の日本でそうした「正しい」備えをすることができるでしょうか? 言い方を変えれば、住民が正しい備えをするために、信頼できる知識・情報を、政府・電力会社(電気事業連合会)・原子力関連産業/組織(以下「原子力推進組織」とします)が提供しているでしょうか。

 これまでの経緯からすると、まずこうした「原子力推進組織」は信頼できません。だとしたら、わたしたちは、自分たちで自分たちを守る手段を準備するしかありません。そして、わたしたちから要求して自治体や政府にもきちんと準備させる必要があります。

 原子力関連施設事故に関して事前にとるべき対策は、
①:原子力事故の影響、すなわち放射性物質の拡散状況を早期に予測・察知するシステムの用意。SPEEDIは有効です。モニタリングポストの線量を見ていては、被ばくした後になってしまいます。
②:放射能汚染の状況など、情報を住民に伝える手段の準備。
③:ヨウ素剤の準備。あらかじめ住民に配布して、事故発生の報告とともにすぐに飲用可能な状態にする必要があります。
④:避難手段の準備。自家用車・バスなど移動手段を準備し、バスの運転手など避難誘導にあたる人員を確保しておく必要があります。しかし、現在の放射線防護にかかわる法律(放射線障害防止法・労働安全衛生法・電離放射線障害防止規則)では、3月間につき1.3mSvを超える地域を放射線管理区域として、一般の労働者の立入を原則禁止していますので、汚染地域の住民避難のためバスの運転を運転手に命ずることはできません。法改正を含む検討が必要です。 泉田裕彦新潟県知事 2014.4.23.朝日新聞
⑤:避難体制の準備。どの地域から、どういう順番で、どのような経路で避難するのか、きちんと避難誘導の手順を確認しておく必要があります。とりわけ、高齢者や障害を持った人、乳幼児、など交通弱者の避難体制を確立しておく必要があります。また、原子力施設と居住地の位置関係から、事故当時の風向によってどの方向に避難するとよいのか、風向による複数のシナリオを用意しておく必要があります。
⑥:住民の被ばくを測定するスクリーニング体制の準備。
⑦:避難の受け入れ地区の準備。
⑧:避難者の生活再建の手立て。


  ■ヨウ素剤をめぐって
 この副読本では原子力施設事故時のヨウ素剤の効用については一言も触れられていません。この副読本の対象は、小中高校生ですから、甲状腺障害を防ぐためにヨウ素剤についての知識がもっとも必要な年齢層のはずです。 ヨウ素剤の意義 2003年2月 原子力安全委員会(当時)資料p.18~

IAEA SS-109においては、米国での経験をもとに・・・・ヨウ素予防服用にともなう死亡リスクは3×10-9(10億分の3)であると推定されている。チェルノブイリ事故時に安定ヨウ素剤の服用を実施したポーランドでは、成人での生命に危険を及ぼす重篤な副作用はきわめて低頻度であり確率4×10-7(1000万分の4)、若年者での重篤な副作用は報告されていない。p7.

 福島原発事故に際しては、まず、自治体・政府には正しい情報が伝えられていませんでした。東京電力ですら原子炉に何が起こっているのか、わかっていなかったようです。   まず、自分。 確かな情報源、 自ら測定 SPIEEDI モニター 被ばく後の指示  初期対応 予防的手段 自治体 政府 実効ある避難計画の策定を義務づける。せめてアメリカ並みに。 避難計画のできない原発は、住民の生命よりも経済的利益が優先されているわけですから、再稼働するべきではありません。  

それでは、現実の「原子力推進組織」の対応にはどんな問題があるのか、詳しく見てみましょう。

■放射線防護の基本原則
 例えば文科省をはじめとする原子力推進組織は、放射線防護の考え方について、次の日本学術会議会長談話を援用して、ICRPの基本原則を指針としているようですが、そのICRP基本原則を現実には守っていません。

 ICRPの防護基準は、次の3つの原則に基づいています。第1に、医療や事故におけ る救助作業のように、個人あるいは社会の利益が放射線の被害を上回るときにだけ被 ばくが正当化されること、第2に、今回のような緊急事態に対応する場合には、一方 で基準の設定によって防止できる被害と、他方でそのことによって生じる他の不利益 (たとえば大量の集団避難による不利益、その過程で生じる心身の健康被害等)の両 者を勘案して、リスクの総和が最も小さくなるように最適化した防護の基準をたてる こと、そして、第3に、平時の場合であれ、緊急時の場合であれ、個人の被ばくする 線量には限度を設定すること、の3つです。
日本学術会議会長談話 放射線防護の対策を正しく理解するために より
2011年6月17日

 このICRPの防護基準についての日本の当局の対応を検討してみましょう。
 第1の原則、まず、福島原発事故は天災ではありません。東京電力があらかじめ地震・津波に備えていれば、明らかに事故は防げたはずです。したがって、天災ではなく人災です。しかも福島原発事故による被ばくは、一方的な被害だけで利益はありませんから、正当化されません。

 第2の原則、「基準の設定によって防止できる被害」とは、避難基準の放射線量を低く設定することにより避けることのできる被ばく被害のことです。「低い」といっても、それは、平常時の一般人の被ばく限度1mSv/年で、チェルノブイリ原発事故時の基準やLNTモデルで推奨されているレベルですから、世界的な標準値といってもよいものです。しかし現実の当局の対応は「そのことによって生じる他の不利益 (たとえば大量の集団避難による不利益、その過程で生じる心身の健康被害等)」を重く評価し、被ばくによる健康被害よりも、避難することによる社会的不利益や主に精神的被害を回避するために、高汚染の元の居住地にとどまらせたり、帰還させようとする方策をとろうとしています。
 現実を見てみましょう。2014年4月に避難指示が解除された田村市都路地区では住民の半数以上避難したまま戻っては来ていません(2014年8月現在、下記リンク参照)。2014年12月には南相馬市の特定避難勧奨地点の避難勧奨を解除しましたが、対象住民のほとんどが解除に反対しています(2014年12月、下記リンク参照)。 集団避難による不利益を検討するならば、もっと大勢の方々の意見を反映するべきです。従って、この第2の原則によるリスクの最適化は現実には当てはまっていませんし、当局による押しつけと批判されてもしかたがありません。

 第3の原則、個人の被ばく線量の限度は、当然平時の1mSv/年を基準とすべきです。しかし、それを超える場所に住民を住まわせる方針がとられています。

 このように見てくると、文科省はICRPの基本原則を掲げながらもそれは口先だけで、実質的には原則をまもっていません。
 文科省・行政の方針が信頼できないというのは悩ましい事態ですが、次項に述べるような国際的な基準に照らして、しっかり自分たちで考えておかなければならないようです。

◎田村市都路地区について                    
プロメテウスの罠 帰還の現実(連載1~15) 朝日新聞
産経新聞
河北新報
◎南相馬地区について・・・・・・・・・・・・・・・・ 東京新聞
朝日新聞
河北新報

日本学術会議会長談話について 島薗進・宗教学とその周辺


■国際的な反響
 福島原発事故とそれに対する政府当局による対応について、国際的にどのような評価があるかと言うことについても、正しく理解しておく必要があります。残念ながら日本のマスコミはほとんど伝えていませんが、国際的人権思想の視点から日本政府当局の事故対応の問題点について学んでおく必要があります。
 余談ながら、日本の国際的人権思想に関わる問題については、今回の福島原発事故の問題に始まった話ではありません。死刑、代用監獄や警察・検察による取調べ、精神障害のある人の非自発的入院、「従軍慰安婦」の問題、技能実習制度、強制退去、先住民族、学校における思想統制などに関する問題などについて、国連人権委員会によって2008年から勧告されていながら、ほとんど改善が見られていません。2014年7月に自由権規約委員会のロドリー議長は次のよう述べたといいます。「日本政府は、委員会がこれまでよりも強い形で勧告を出しても驚かれることはないでしょう。日本政府は明らかに国際コミュニティに抵抗しているようにみえます。」(下記海渡雄一氏の資料参照)
 人権の視点に立つと、日本政府の対応はとても先進国とは思えない、お寒い状況です。


■グローバー勧告
 2013年3月、福島原発事故に関連した「健康に関する権利」特別調査報告が国連人権理事会に提出され、その中に日本政府に対する勧告が盛り込まれています。この特別報告・勧告の中心になったのがアナンド・グローバー氏(インド選出)です。氏は2012年11月15日から26日にかけて来日調査を行い、各関連省庁、福島県庁、福島県立医大、自治体、東京電力等から事情聴取。福島県福島市、郡山市、伊達市、南相馬市、宮城県仙台市などを訪れ、住民へのインタビュー、モニタリング・ポスト周辺や学校、居住地域等での線量測定。さらに、いわゆる「自主避難者」や、市民グループ、専門家等、原発労働者から聞き取り調査を行ったそうです。

 特別調査報告書では、次のように日本政府当局の対応を断罪しています。
(下記伊藤和子氏の資料より)

  • 原発事故後、(広島型原爆の少なくとも168.5倍⇒拡大中)とされる放射性物質が人々の健康にリスクをもたらしているが、政府の対応は十分とは到底言えない。

  • 政府は事故直後に、従来からの告示である「公衆の被ばく限度1ミリシーベルト」基準を大幅に緩和して、「年間20ミリシーベルト」を避難基準として設定。

  • 除染については、目標曖昧化

  • 政府は「100ミリシーベルト以下の低線量被曝は安全」として、低線量被曝の影響を過小評価する見解をとり、これを基礎に、すべての政策を住民の意見を十分に反映しないまま決定・実行してきた。【他略】


 このように報告して、次のような勧告を日本政府に対して行いました。(抄)

  • 低線量被ばくに関するリスクが証明されていない以上、もっとも影響を受けやすい人の立場に立って人権の視点から健康を守る施策を行うこと。

  • そのために、追加線量年間1mSvを基準とした住民への支援への抜本的な政策転換を求めた。

  • 低線量の放射線でも健康に悪影響を与える可能性はあるので、避難者は、年間放射線量が1mSv以下で可能な限り低くなった時のみ、帰還することを推奨されるべきである。

  • その間にも、日本政府は、全ての避難者が帰還するか、避難を続けるかを自分で決定できるように、全ての避難者に対する財政的援助及び給付金を提供し続けるべきである。

  • 特別報告者は、2012年6月に「子ども被災者支援法」が制定されたにも拘わらず、まだ具体策の実施が進んでいない点を懸念する。
     国連特別報告者は、同法で対象となる地域が、年間放射線量1mSVを超える地域を含むべきであると確信している。
     また、低線量放射線による長期間被ばくの健康への影響は、正確に予測できるものではないため、同法の履行に際しては、全ての被災者に対して、放射線被ばくに関する、無料で、一生涯にわたる健康診断と医療を提供することを明確にするべきである。

  • 「原子力事故子ども・被災者支援法」の実行体制を、影響を受けた住民の参加を確保して策定すること。

  • 国連特別報告者は、原発の稼動、避難区域の指定、放射線量の限度、健康管理調査、賠償額の決定を含む原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに、住民、特に社会的弱者が効果的に参加できることを確実にするよう、日本政府に要請する 。 【他略】


 このグローバー勧告に対して、日本政府の反論は次の通りであるといいます。

  • 「(ほとんどの勧告に対して)対応済みである」

  • 「低線量被ばくの一定の側面について知られていないことがいまだあるとしても、すでに多くの科学的発見がある。したがって、それらに基づいて判断を下すことが必要である。」

  • 「2011年10月放射線に関する文科省発行の補助テキスト(旧放射線副読本)では、短期間で の100mSv以下の低レベル放射線被ばくが、癌やその他の病気を引き起こすということを示す証拠はこれまで示されたことはないと述べている。同時に、放射線被ばくは可能な限り低いレベルを維持すべきであると言う国際放射線防護委員会(ICRP)の警告とともに、放射線は、喫煙、食べ物、食生活、ウイルス、大気汚染等と共に、癌の原因の1つであり、放射線被ばくを可能な限り低くすることが重要であるとも述べている」ので問題は無い。

  • 1mSvという基準に根拠はない。「国連特別報告者は、健康管理調査を年間放射線量1mSv以上のすべての地域に居住する人々に対し実施されるべき」とする勧告については、「科学的根拠が不十分であり、勧告内容の変更なしには受け入れることができない。(削除すべきである。?)」

  • 特別報告者の勧告は非科学的で受け入れられない。

  • 不必要で科学的根拠のない検査を住民に強制するつもりはない。

  • 原子力エネルギー政策に関しては、経産省総合資源エネルギー調査会が議論している。ここには原子力発電所のある地域の知事1名が参加している。また、誰でもいつでもホームページから自分の意見を委員会に提出できる。
    【他略】

国連人権理事会 報告書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
グローバー勧告について 伊藤和子
報告書仮訳 ヒュマンライツ・ナウ   英文
グローバー氏来日講演 映像

 さて、グローバー勧告に対する日本政府の対応は国際的な水準から見て満足のいくものでしょうか? あなたはどう思われますか?
 国内で大きく報道されないことをいいことに、日本政府は国際社会に対してずいぶんと勝手なことをいっているとは思いませんか?

■国連自由権規約委員会 2014年7月
 2014年7月、国連の自由権規約委員会がジュネーブで開かれました。
 「市民的および政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)は、表現、良心、信仰の自由、政治的権利、生命の権利、拷問の禁止、平等の権利などの権利について規定する条約です。自由権規約委員会は規約に基づいて設置された18人の専門家による機関で、締約国が提出した報告を政府代表団と審議し、課題や勧告を含む総括所見を公表します。日本は2008年に審議された第4回・第5回報告に続いて、今回第6回目の報告の審議となりました。
「慰安婦」をめぐる課題、難民認定制度と収容・送還、人身売買や技能実習制度、セクシャル・ハラスメント、福島第一原発事故後の住民の安全や健康に関する情報の提供などについて、討議され勧告が出されました。

 福島原発事故に関しては、上記グローバー勧告が取り上げられ、 国際基準(年間1ミリシーベルト)の20倍の線量地域に帰還政策がとられていること、帰還した人々、避難している人々にどの程度の補償と情報が提供されているのかなどについて討議されました。
 その結果、「第7 マイノリティの人権とその保護 4福島原発事故被害者」の項目で次のような勧告が出されました。


  • 「福島で許容される公衆の被ばく限度が高いこと、数か所の避難区域が解除され、人々が放射能で高度に汚染された地域に帰還するしか選択肢がない状況に置かれていること」に懸念が表明された。

  • 「福島原発事故の影響を受けた人々の生命を保護するために必要なすべての措置を講ずるべきであり、放射線のレベルが住民にリスクをもたらさないといえる場合でない限り、避難区域の指定を解除すべきでない。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・(下記リンク海渡雄一氏資料)
 
 つまり、自由権規約委員会の勧告では、低レベル放射線被ばくの健康影響は明らかではないという前提に立って、被災地に滞在する人、避難する人、帰還する人への補償を同じくして、被災者の選択肢を狭めてはならないことが勧告されました。しかし、日本政府の政策は帰還優先で、避難している人への補償が打ち切られようとしています。

 わたしたちはこのような国際社会の認識・勧告をしっかりとうけとめる必要があります。海外の組織・人々と連帯して福島の問題をとらえ、政府に対して要求し行動していくことが求められています。


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