教員用 p.3 学習のポイント・指導上の留意点 ↑前のページへもどる

最初に子どもたちに放射線について語りかけるのに、福島原発事故のことに何も触れず、スイセンの花のことなどを取り上げています。このことから、この副読本の目的がおのずと明らかになってきます。
 今なぜ放射線のことを子どもたちが知らなければならないかというと、福島原発事故で東日本を中心に大量の放射性物質が拡散して、その脅威から子どもたちの健康を守るために、放射線の知識が必要なのでは無いでしょうか。
 放射線は基本的に生命にとって危険なものです。事故によって環境中に大量に放出された放射性物質から、どうやったら影響を少なくすることができるのか、それを教えることが、この副読本の使命のはずです。
 ところが、この副読本を編集した人たちは、原子力・放射線の利用を進めるためにこの副読本を作っているようです。それは、放射線や原子力を利用する産業を守るためでもあります。でも福島原発の事故後の現在となっては、条件が変わってくると思うのです。事故についての反省をしっかりと踏まえた上で、放射線から私たちの暮らしをどう守るか、原子力をどのように利用するか、根本的な問題としてみんなで話し合って考えていかなければならない問題です。


教員用p.4 植物中のカリウム ↑前のページへもどる

 食べ物の中に含まれている放射性物質には、カリウム40という物質があります。この放射性でないカリウムは確かに人間の体にも欠かせない栄養素ですが、放射性カリウム40が、欠かせないわけではありません。放射性のカリウム40は、できれば食べない方がいい物です。
 このような身の回りの自然放射性物質が原因で、遺伝子が傷つき、人間はがんになったり、白血病になったりしているのです。さらに、人工の放射性物質を、カリウム40などのような自然にある放射性物質以外に余計に取り込む必要はまったくありませんから、人工放射性物質は環境中にない方がいいのです。
 この部分の記述のように、放射性物質がいくら身の回りにあったとしても、それが人間の体には「無用」であるばかりか、基本的に「有害」であるはずなのに、ただ身の回りに「多く存在」していていることにより、「無害」であるかのような印象を読む者に与えようとしている記述があちこちにあります。放射線・放射性物質に対する心理的な障壁をできる限り取り除いて、放射線・原子力への親しみやすさを養おうとする意図がミエミエですので、注意が必要です。


教員用p.4 放射線発見の歴史 ↑前のページへもどる

 放射線の発見は、人類の科学史の中でもきわめて優れた栄光の業績でしょう。しかし、その栄光の陰で、当時は知られていなかった放射線の害と思われる症状が発見に係わった人々に見られます。レントゲン博士はガンで亡くなり、キュリー夫人も再生不良性貧血(Wikipediaより)が死因とみられています。(キュリー夫人の使った実験室やさまざまな遺品からいまでも放射線の反応があるそうです。)いずれも放射能との関連が疑われる症状です。栄光の陰にはすくなからずの犠牲が伴ったことを忘れてはならないと思います。


教員用p.5〜6 自然放射線 ↑前のページへもどる

生物と放射線は共存できません!!
   身の回りに放射線が昔からあったとしても、生物にとって放射線が必要なものではなく、基本的に放射線は生き物に対して害になるものです。

■自然放射線って何?
 原子爆弾や原子力発電所から出る放射線とはちがい、人間が作りだしたのではない放射線を 自然放射線といいます。その中には宇宙や太陽や地中からでてくる放射線や食べ物の中にある物質がだす放射線がふくまれます。そのために「生き物は地球上に誕生したときから放射線を受けている」という説明よく聞きます。
 この副読本の説明も、「放射線は今初めて接するものではなく、自然の中に元々あるものだから、何も怖がることはない」ということを言いたいようです。  でも下の図を見てください。この図は、地球が誕生してから現在まで、地球にふりそそぐ宇宙からの放射線(宇宙線)や紫外線(しがいせん)と、地球の生き物の関係をえがいたグラフです。



 図中A :生命が生まれたのは生物に害をあたえる宇宙線がとどかない深い海の底でした。

 図中B :生物が浅い海でも生きられるようになったのは、地球上にふりそそぐ宇宙線をふせぐバリアー( ヴァンアレン帯)ができた後でした。放射線が命に危険にならないくらい少なくなったからです。

 図中C :海の中に酸素を作り出す細菌(さいきん)が生まれると、大気中にたくさんの酸素がたまりオゾン層ができました。植物や動物が海から陸に上がって生きられるようになったのはこのオゾン層が命に危険な紫外線を防ぐようになったためです。

  このようにみてみると、生き物は放射線の害がすくなくなり、命に害をあたえない場所にひろがっていったことが分かります。
  今も私たちが自然の中で浴びている放射線の影響で、わたしたちはガンになったり、その他の様々な影響を受けているのです。     【ここまで、生徒用p.5のコメントと同じ】

■放射線のはたらき
   「放射線は光の仲間に分類できるが、目に見えないもの」と説明されています。しかし、放射線はただ目に見えないだけではなく、光と違って生命に害があることです。その害は「透過力」とあわせたもので、生物の体を通り抜けるときに生物の細胞のDNAを傷つけることです。
  この影響は、低線量であっても起こり、「確率的影響」と呼ばれています。


教員用p.6-7 【放射線】食べ物から/ 学習のポイント ↑前のページへもどる

 食べ物の中に含まれている放射性物質には、カリウム40という物質があります。このカリウムは確かに人間の体にも欠かせない栄養素ですが、放射性カリウム40が、欠かせないわけではありません。放射性のカリウム40は、できれば食べない方がいい物です。
 このような身の回りの放射性物質が原因で、遺伝子が傷つき、人間はがんになったり、白血病になったりしているのです。さらに、人工の放射性物質を、カリウム40などのような自然にある放射性物質以外に余計に取り込む必要はまったくありませんから、人工放射性物質は環境中にない方がいいのです。
 この部分の記述のように、放射性物質がいくら身の回りにあったとしても、それが人間の体には「無用」であるばかりか、基本的に「有害」であるはずなのに、ただ身の回りに「多く存在」していて、「無害」であるかのような印象を読む者に与えようとしている記述があちこちにあります。放射線・放射性物質に対する心理的な障壁をできる限り取り除いて、放射線・原子力への親しみやすさを養おうとする意図がミエミエですので、注意が必要です。

 「◎放射線がどこにあるのか進んで調べようとする。」(学習のポイント)とありますが、福島原発事故でまき散らされた放射性物質が、環境中に大量に存在する現在の状況を考慮しているとは思えません。事故以前のたいへん脳天気な記述です。
 それよりは、事故により拡散された放射性物質が、どんなところに集積しているのか、たとえば、雨どいや雨水ますなど、マイクロスポットとよばれる場所についての注意をするべきだと思われます。


教師用p.6 放射線の透過力 ↑前のページへもどる

 放射線の種類によってどれくらい透過力があるか、具体的な数値は次の通りです。空気中や人体中の「透過力」も問題です。下の図で、問題なのは、ガンマ線や中性子線は、人体を通り抜けますが、人体の60%は水分ですから、中性子線でも人体を通り抜けるときには減衰します。減衰するということは、そこの細胞・分子に放射線が衝突して、そこでエネルギーを失うということですから、あたった物質は分子レベルで傷つくのです。

 

 放射線の透過力についての説明で気づくことは、@:アルファ線やベータ線を出す放射性物質が体内に入った場合はとても危険だということ。これは説明にもあります。それならば、どういう物質がアルファ線やベータ線を出すかということも、知っておいた方がいいでしょう。
A:より問題なことは、アルファ線やベータ線しか出さない放射性物質が身体の中に入ってしまった場合、身体の表面から放射線検知器をあてても簡単には検知されないということです。
ストロンチウム90とか、プルトニウムとか、体内に取り込まれると、身体の外から検知器をあてても、わかりません。内部被ばくしないように、体内に取り込まないように用心することが大切です。


教員用p.7 放射線の利用 ↑前のページへもどる

 今、福島原発事故によって大量にまき散らされた放射性物質の中で、身の危険を感じながら暮らすことを強いられている児童・生徒にとって、この時点で放射線の有用性について学ぶ必要がどれほどあるのでしょうか? ここに書かれている内容は、緊急に出版されたこの放射線副読本が、これほどの分量で取り上げるべき内容とは思えません。それはむしろ、この副読本の制作に当たった「原子力ムラ」の関係者のあせりを反映していると思われます。放射線に対する恐怖よりも、有用性を教えることにより、原子力利用の可能性を残しておきたい、そんな当事者達の「あせり」の反映ではないでしょうか。

 生徒用の副読本p.7についてのコメントを次に載せておきます。
 放射線の利用については、とても内容が充実している。でもいま、小学生にとって必要なことは、このような「放射線の利用」について、理解を深めることでしょうか。
 福島原発で大勢の人々が被ばくし、高レベルの放射線汚染により、今後数十年間故郷に戻ることが出来ないようになってしまいました。このような放射線の有用性を説くのは、原子力にあこがれてその研究・開発を目指す児童生徒が一人でも残るように、原子力産業の最後のあがきのようにも見ることが出来ます。

 日本でどのようにしてこのような放射線の研究利用が盛んに行われるようになってきたのでしょうか。そのいきさつを見てみましょう。
 日本で原子力の開発が始められた1950年ごろ。広島・長崎の原爆投下により、核・原子力開発に関して日本人は「怖いもの」「おそろしいもの」というマイナスのイメージをもっていました。このイメージをふきとばすために、初代科学技術庁(当時)長官に就任した正力松太郎氏が、その経営する新聞・テレビ(読売グループ)を中心に、日本のマスコミ界を総動員して、原子力技術のバラ色のイメージをひろめるために『原子力の平和利用"Atoms for Peace"』の一大キャンペーンを展開したということです。各地で「原子力博覧会」が開催され、「原爆」と「原発」はちがうものだとして原水爆禁止運動の関係者も、原子力の平和利用に期待を寄せたそうです。
 当時の情景に、現在のこの文科省の活動が重なって見えます。ちなみに、政界で原子力開発の旗振りをし、日本で初めての原子力予算を提案したのは中曽根康弘氏です。その科学技術庁というのは、そもそも原子力開発を担うための創設された組織であり、その開発の中核は、今日の高速増殖炉「もんじゅ」に引き継がれている、核燃料サイクルです。現在の文部科学省はその科学技術庁と文部省が統合(2001年)されて出来ています。ですから、この放射線副読本でも、放射線の効用をうたう内容がこれだけ充実しているのです。
 しかし、今回の福島原発事故を契機に、これまでの原子力開発そのものを見直す時期に来ています。しかし、そのことを文科省は理解していないし、しようともしていないように思われます。
ただし、今後も原子力・核関連の技術は必要です。ですが、それは、これだけの被ばくがもたらされたことの後始末や、また各地の原子力発電所やその関連施設の後始末と、おそらく、十数万年は管理し続けなければならない核廃棄物の安全で確実な管理のためでしょう。そうした方向性をきちんと持つべきではないでしょうか。


教員用p.8 ものを通り抜ける働きを利用 ↑前のページへもどる

 皆さんはお医者さんにかかったときにレントゲン写真をとられたことがあるでしょう。日本にいる人でレントゲン写真を一度もとられたことがない人はまずいないでしょうね。
 日本のお医者さんはレントゲン写真をすぐにとりたがります。簡単に撮影できるし、簡単に診断ができるからでしょう。でもそのために日本人が医者の診療などによって放射線を浴びている量は世界でダントツの1位です。
 日本人の医療被ばくを世界で一番にしている大きな原因はCT検査です。お医者さんが安易に行うCTなどにたよる医療行為が問題になっています。CT検査による被ばく量は、一般人の年間被ばく限度量1ミリシーベルトをはるかに上回り、1回で5〜8ミリシーベルトの被ばく量です。放射線被ばくによるデメリットと、治療に役立てるメリットをよく考えて利用することが大切です。

 中学校生徒用p.13bの注も参照。
 このグラフから見るとおり、日本での自然放射線による被ばく量は、1.48mSvであり、世界平均の2.4mSvよりも少ない。にもかかわらず、年間の被ばく量は、世界平均よりも多く、その原因は医療被ばくが世界平均の4倍近くに達しているためである。 これについて、2005.2.10. 読売新聞には次のような記事があった。

生徒用p.17の注と同じ引用
日本人のガン、3.2%は医療被ばく (記事の要約)
            英国医療専門誌 ランセント報告  2005.2.10. 読売新聞
 日本国内でがんにかかる人の3.2%は医療機関により放射線診断で 被ばくが原因のがん発症と推定されることが、国際的研究で明らかになった。
 英国オックスフォード大学チームが、15か国を対象1991−96年調査、 日本の医療診断によるがん発症がもっとも高いと判明。
 CTの高い普及度が背景。2004年:国内に7920台配置。
 日本国内での医療診断によるがん発症は7,587件でがん発症者の3.2%。
  (英国では0.6%、米国では0.9%)
 日本の検査数は15か国平均の2倍近く、がん発症は2,7倍。

 日本:CT検査装置の普及進む。人口100万人当たり64台で最高、 次位のスイスでさえ26台程度。  検査をすればするほど 医師の収入増につながるが、CTの過剰検査は要注意。 超音波など害のない診断への移行が望まれる。


教員用p.9-10 放射性物質の変化・半減期 ↑前のページへもどる

 ここで説明されているのは、放射性物質の半減期減期についてです。例では、半減期が8日のヨウ素131 I 131 が扱われていますが、半減期には様々な長さがあります。数百万分の一秒以下のものもあれば、原子力発電所の使用済み核燃料に含まれるストロンチウム90 Sr90 は29年、プルトニウム239 Pu239 は2万4千年です。
  放射性物質はその半減期の10倍くらいの期間が過ぎないと、その放射能の影響を考えなくてもいいようにはならないといわれています。つまり、ここで教えるべきコトは、それだけの期間、放射能の影響が消えないということです。プルトニウム239の場合、半減期は2万4千年ですから、その10倍、つまり24万年もの間、放射能を持ち続けるということになります。
 また、いま福島原発から放出されて環境中に拡散されたセシウム137は、半減期が30年ですから、およそ300年間はその影響が消えないことになります。




 生物(人間)の体内に入った放射性物質の「半減期」は「生物学的半減期」という考え方があります。この教師用のページで解説されているのは「物理学的半減期」というものです。

 ただし、「生物学的半減期」に関しては、誤解が生じやすい。福島原発事故後の現在では、環境中にセシウム1 3 7 ( 一定期間内ではヨウ素1 3 1 ) などの放射性物質が大量に存在し、それら放射性物質は環境中に生活する人体に連続的に内部被ばくを引き起こしています。従って、実験室的にたった一度だけ放射性物質の内部被爆にさらされた場合であれば、「生物学的半減期」で人体に取り込まれた放射性物質の放射線量は半減することになりますが、連続的に内部被ばくしている状況では、むしろ放射線量は蓄積していくことになります。そうした指摘は不可欠です。


 このグラフは文科省も信奉しているICRP:国際放射線防護委員会が、福島原発事故が起こった2011年4月に、特に日本の放射能汚染に向けて発表したデータです。
 実効半減期を考慮したとしても、毎日10ベクレルずつ飲食などを通じて摂取していると、400日ほどで1400ベクレルまで蓄積していくことが示されています。そして、今、東日本では、それくらいの摂取はごく当たり前になっています。


教員用p.10 原子核から出る放射線 ↑前のページへもどる

 放射線が放出されるのは、次の二つの場合です。
 一つめのケースは、ウラニウムなどの大きな原子の原子核に、中性子が衝突した時に、原子核が分裂します。これを核分裂といいます。核分裂 の時に、ベータ線・ガンマ線や中性子線などの放射線が放出されます。
 またウラニウムの場合、分裂した原子核1個から中性子が平均2個ほど飛び出し、その中性子がまた他のウラニウム原子核に衝突すると、そこでも核分裂が起こります。こうして次々に核分裂が起こることを、連鎖反応 といいます。このときに膨大なエネルギーが発生します。これが、原子爆弾や原子炉の原理です。ですから、原子爆弾と原子力発電は兄弟なのです。


 核分裂によって二つに割れた原子核は、それぞれ別の原子の原子核になります。 どんな原子に分裂するか、確率的にしかわかりません。できた核分裂生成物の原子は、たいていは不安定で、放射線が出ますので、「死の灰」と呼ばれます。  この核分裂生成物のように、アルファ線やベータ線・ガンマ線などを放出して自然に分解していくことを崩壊といいます。この崩壊が、原子から放射線が出る第二のケースです。


教員用p.10 原子核から出る放射線 ↑前のページへもどる

 放射線が放出されるのは、次の二つの場合です。
 一つめのケースは、ウラニウムなどの大きな原子の原子核に、中性子が衝突した時に、原子核が分裂します。これを核分裂といいます。核分裂 の時に、ベータ線・ガンマ線や中性子線などの放射線が放出されます。
 またウラニウムの場合、分裂した原子核1個から中性子が平均2個ほど飛び出し、その中性子がまた他のウラニウム原子核に衝突すると、そこでも核分裂が起こります。こうして次々に核分裂が起こることを、連鎖反応 といいます。このときに膨大なエネルギーが発生します。これが、原子爆弾や原子炉の原理です。ですから、原子爆弾と原子力発電は兄弟なのです。


 核分裂によって二つに割れた原子核は、それぞれ別の原子の原子核になります。 どんな原子に分裂するか、確率的にしかわかりません。できた核分裂生成物の原子は、たいていは不安定で、放射線が出ますので、「死の灰」と呼ばれます。  この核分裂生成物のように、アルファ線やベータ線・ガンマ線などを放出して自然に分解していくことを崩壊(壊変)といいます。この崩壊(壊変)が、原子から放射線が出る第二のケースです。


教員用p.16 ガンのいろいろな発生原因 ↑前のページへもどる

  がんの諸原因について、放射線もそれら諸原因の一つに過ぎない、と いうような、放射線をことさらに特別視しないで大丈夫という扱い方に違和 感をおぼえます。事故後によく見られた、さまざまなリスクの中で、たとえ ば自動車事故に遭うリスクと比べて、放射線でがんになり死ぬリスクは、 それほど大きくないのに、何故自動車は良くて、放射能は悪いのか、とい うような比較です。そもそも、比較する必然性のないものを、リスク評価と いう同じ物差しで測るような視点は、あまりに功利的すぎて、作為的な印 象がぬぐえません。
  「ウィルス」や「大気汚染」ならともかくも、「喫煙や食事・食習慣」は、い うなれば自己責任の問題です。強制的に有無をいわさず、放射線に被ば くさせられている人たちから見れば、問題をすり替えられているようにも受 け取られることでしょう。「喫煙」について同じように「出来るだけ少なくす ることが大切です」とか、よい「食事・食習慣」をするように心がけましょう、 などと述べることがこの副教材の目的とは思えません。放射線の危険性 について学習することが目的のハズですから、放射線の危険性を相対化 するような作為は、避けるべきだと思います。 生徒用p.14と同じ



教員用p.12 身体的影響と遺伝的影響 ↑前のページへもどる

 身体的影響のうち、晩発性障害とよばれるものについては、下図のようなバイスタンダー効果や遅延型突然変異などの症例が報告されている。
 これらの報告は、まだ検証途上である。このように、低線量放射線の影響については、まだわからないことが多い。従って、報告されていないから安全・安心ではない、ということを考慮に入れるべきである。








教員用 p.13 身の回りに放射線があることを
        理解できるようにする。

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 放射線・放射能をどうして身近な存在として理解しなければならないのか、 その意図が問題である。福島原発事故によって、拡散された放射性物質に苦しんでいる 6万人以上の避難者がいる中で、放射線利用への理解を求め、その普及促進を図ることが いまなすべきことだろうか。
 現在、汚染が広がったこの状況で、放射線測定器を用いれば、誰でも簡単に放射性物質の汚染状況を確かめることができる。そうした状況でこどもたちが持つべき認識は、基本的に放射線は生物と共存できないもので、環境中の放射線は少ないほどよいという認識のはずである。 また、身の回りに放射線があったとしたら、どのようにすれば被ばくを避けることができるか、ということこそ 学ぶべき事柄だと思われる。
 この部分の記述は、放射線の利用により利益を得る個人・団体の意図が働いているのではないかとさえ、疑われるような内容である。
 


教師用p.13 放射線の飛跡の観察 ↑前のページへもどる

 放射線が通った跡を見ることができる実験装置が「霧箱」という実験器具です。 文部科学省が全国の高校などに「エネルギー(原子力)教育予算」としてつけた予算では、 必ずこの実験器具を購入するように指導がされていました。一台70〜80万円もする実験器具ですが、 ほとんどの学校では、年に一度使うか使わないかで、実験室の隅っこでほこりをかぶっています。


教員用 p.14 簡易放射線測定器の活用
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 今、関東地方以北の学校で、放射線測定器で線量を測定すれば、 ほとんどの学校で、驚くような数値が観測される。 この副読本では、そのことに全く触れず、福島原発事故前と 何ら変わらない脳天気な内容になっている。
 もちろん、観測されるのは、福島原発から放出された放射性物質による放射線である。  とりわけ、雨どいや雨水ますなど、雨などが集まりやすいところで、 高線量が観測されるはずである。学校敷地内ならば、体育館の大きな屋根の雨水を 集める集水ますなどは、必ずといっていいくらい、高線量のはずである。 集水ますに溜まった、土砂などが高線量の原因なので、それらを定期的に除去したり、 高圧水で洗浄したり、除染作業が必要な場所があちこちにあるはずである。
 これは、なにも学校だけに限らない。民家や、民間の建造物でも、 あちこちで高線量が観測されるはずである。花こう岩や、湯の花、マントルなど、 特殊なものを用いなくても、環境中のあちこちに福島原発由来の放射性物質が溜まっているはずだ。
 このような現実に目を向けさせない放射線の扱いは、いったい何の役に立つのだろうか?


新潟県十日町のHPより


教員用 p.14 色々な測定器
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 今、福島原発から放出された放射性物質が環境中に散在している状況で、実験室の中のような測定器の話をすることにどれだけの意味があるのだろうか。大きな電気店や、通信販売でも数千円から簡便な放射線測定器が購入できる現在、もっと実用に即した説明があっていいように思う。  中学生・高校生の家庭では、そうした自前の測定器をもっている家庭があるはずである。現実はもっと先へ進んでいる。

 10万円以内で購入できるクラスの測定器は、測定値にばらつきが多い。機会があれば、一度は高額・精密な測定器と比較して、測定値の傾向を把握することをお勧めする。
 簡易型の機器は、相対的な線量の目安として用いるとよい。例えば、A地点よりB地点の方が線量が高いとか、昨日より今日の方が線量が高いとか、測定値を比較することで、高線量が観測されたら、より精密な測定器で再測定するようにすればよい。
 食品の測定に用いられる検査機は、このところずいぶんと価格も下がり、機種も豊富になってきた。数分から、長くても数時間で測定できるものが多く登場してきた。気をつけるべきことは、測定限界値である。一般に高価な機器ほど、また時間をかけるほど測定限界値は小さくなる。測定限界値以下(ND)だからといって、安心できるとは限らない。

 


教員用p.16 外部被ばくを防ぐには・・・・ ↑前のページへもどる

 「外部被ばくをしたとしても、放射線は体内を通り抜けたり、体内を通過中にエネルギーを失って無くなったりすることから、身体の中にとどまることはなく・・・・・」
 この記述は、まるで外部被ばくをうけてもまったく害がないような書き方である。たしかに放射性物質は外部被ばくだけでは身体の中にとどまることはない。そうでなくとも「いじめ」や「差別」はもってのほかでる。この副読本の編集者は、いったい何を問題と考えているのか、理解に苦しむ。
 当然外部被ばくをすれば、身体の組織はDNAレベルで傷つき、低線量であってもそれなりの症状が出てくる。

 また、次の 「空気中の放出された放射性物質は・・・・」のパラグラフも、まるで人ごとのような記述である。放射性の雲=プルームが雨に付着して地面に落ちたところは、ホットスポットとなり、こうした場所は群馬県や茨城県・千葉県・東京都など遠く離れたところにも存在する。地面に落ちた放射性物質は土に固着するものもあるだろうが、乾燥すれば土埃ごと舞い上がり、拡散する。いかにも、影響を小さく見せようとする意図が見え見えの記述である。


教員用p.16 注) 避難の指示について ↑前のページへもどる

 「・・事故直後に政府は、20キロメートル内の住民に対して避難を指示し・・・・」と、あたかも整然と避難指示勧告が出されたかのように記述されていますが、実態はとんでもなく混乱した状況であったことは、数々の報道で明らかになっています。
 たとえば、30キロメートル以上も離れた、飯舘村が放射能プルームの風下になり、雪に交じって放射性物質が降下し、極めて汚染が高くなってしまったことは、ほとんど公表されませんでした。そのために原発近隣の住民がわざわざ高汚染の飯舘村へ避難し、飯舘村の人々と同様に被ばくをしてしまいました。しかも飯舘村の人々が避難を完了したのは、事故から2ヶ月も経ってからのことです。こうしたことの責任はいったいどこに・誰にあるのでしょうか。この副読本の記述は、そうした混乱を隠蔽しようとしているかのような、問題の多い記述です。


教員用 p.16 放射性物質の管理とは
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 福島原発事故以前からある放射線管理区域の設定基準は、表の通りであり、ここには具体的な記述が見られない。
 福島原発から放出された放射性物質により、関東以北の至る処でこの基準を上回る汚染が発見されている。もはやこの基準は、基準としての意味をなさない。とりわけ、ホットスポット・マイクロスポットと呼ばれているところでは、これらを遙かに上回る線量が観測されている。この部分の記述は、きわめて脳天気であり、もしこれを適用するならば、皆が法律違反をしていることになってしまう。


教員用p.17 年間放射線量
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 このグラフは、福島原発事故の前の日本の状況です。 それを忘れてしまうと、世界平均よりも日本での被ばくの方が 少ないようになっているので、生徒は安心してしまうかもしれません。
ですが、事故前でさえも右グラフを見ると、 日本人の被ばく量の方が医療被ばくのせいで多くなっているという現実があります。
 なぜ、こちらのグラフを生徒に紹介しないのでしょうか。 (どちらも文科省の副読本に掲載されているグラフです。)
自然界からだけ受ける放射線量を比較するグラフとどちらが重要な情報でしょうか。 こどもたちは、総体としての被ばく量を知っておく必要があるのではないでしょうか。
 また、日本のこの被ばく量は、福島原発事故により確実に増大しています。 そのことを指摘する必要があるはずです。
こういった点にも、文科省がわざとこのようなデータを示している(隠している) のではないかと考えてしまいます
教員用p.22-b の注も参照。


教員用 p.17 内部被ばくを調べる
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 ここに記載されているホールボディーカウンターWBCは、 「厳密な測定」が出来る機種で、最近各地で用いられているのは、 右の写真のようなイス式の測定器である。
 福島原発事故後、被ばくした住民たちがWBCによる内部被ばくの測定を希望していたが、 なかなか測定してもらえなかったそうである。 自費で千葉の放射線医学総合研究所などへ出かけ、やっと測定してもらっても、 本人には数値が知らされず、ただ「(このレベルなら)大丈夫」ということを 言われただけだけだという。
 事故に備えて、測定器をそろえるだけではなく、 どのような検査態勢が必要かということも、検討されなければならない。


教員用 p.17 飲食物の暫定規制値
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 「暫定規制値は、すべての飲食物を一年間、毎日、摂取し続けても健康に影響がないことを前提として決められた基準であり、相当の安全を見込んで設定されている。」とまで書いておきながら、それに続いて、「被ばくによる健康への影響を出来るだけ低く抑えることが求められていることから、合理的に達成可能な範囲内で適宜、この暫定値は見直される。」と書かれている。
 要するに、「暫定基準値」よりも、「健康への影響を出来るだけ低く抑えること」が出来る"別の基準値"が存在し、これはあくまでも「緊急時」のものであるわけだ。「相当の安全を見込んで設定されている」とはとても思えない。人々の不安を取り除くことにいかに汲汲としているかがよくわかる記述である。
 下表は、日本人の一日の食物の平均摂取量をもとに、暫定基準値・新基準値(2012.4.より)・ウクライナの基準値で、各基準値ぎりぎりの食料を食べたときの一日のセシウム摂取量(ベクレル)、およびそれから年間のセシウム摂取量(ミリシーベルト)を計算したものである。
 現実には、すべての食材で基準値めいっぱいの食材を食べることはあり得ないが、しかし、基準値というのは、そこまでの被ばくは「許される」あるいは「ガマンさせられる」値である。暫定基準値では、年間5mSvもの内部被ばくが許容され、新基準値でも年間約0.8mSvの内部被ばくまでガマンさせられることになっている。ウクライナの基準値は、およそその60%の被ばくになる。まだ日本の基準値は高いのではないだろうか。
 ちなみに、100Bq/kg という数値は、原子炉等規制法(2005年改訂)で定められた 放射性廃棄物のクリアランスレベルと同等であり、 コンクリートなど建設資材などへの低レベル放射性廃棄物の再利用が認められている値である。再利用可能な放射性廃棄物と同等のレベルで、食品の放射線基準も定められていることになる。




教師用p.14 放射線量の線量 ベクレルとシーベルト ↑前のページへもどる

 この記述は、まず、なにをいってるかよくわからないと思います。同じ「シーベルト Sv」 という単位が『「等価線量」 「実効線量」「1センチメートル線量等量」など、異なる定義の数量にも使用されている』ために混乱しがちです。
 重要な点は Sv という単位が純粋な物理量ではないことです。国際放射線防護委員会(ICRP)・ 国際放射線単位測定委員会(ICRU)などの国際機関が中心となって、被ばくとその影響の観察・調査に基づき、 いうなれば"人為的に定めた数値"が用いられています。ICRP勧告が出される度に、ちょっとづつ改定されています(注1)。

 これについて、兵頭俊夫元東大教授は次のように述べています。
「放射線被曝を防ぐ放射線防護の立場からは、ある瞬間にある場所に来ている放射線が体にどれだけ良くないかも含めて表現したいという要求があります。人体への影響は医学的な統計によらなければデータがないので、現在分かっていることが未来永劫正しいとは限りません。それでもそのような量で考えた方が目的に可能ので(ママ)そのような努力が続けられています。」 (兵頭俊夫氏のHPより)
「被ばくは、その影響を調べることを目的として計画的に発生させることはできません。そのため、戦争や事故などの不幸な出来事の被災者のデータ等を整理して判断しています。したがってその精度にも限界があります。」 (同上:兵頭俊夫氏のHPより)

 研究者自身がこのような発言をしている一方で、過去最もデータのそろったと言ってよい広島・長崎の被爆者の調査では、原爆投下後の長期にわたる内部被ばくについては、ほとんど評価されていないという指摘があります。
 澤田昭二氏:「放射線による内部被ばく」『日本の科学者』2011年6月
   また、私たちが過去のデータを集めて調べたところによると、世界には この地図 に示すように、おびただしい数の放射線被ばく事故が起こっています。しかしそのほとんどが軍事機密や国家利権などの壁にはばまれて、事故の概要をはじめ、詳細なデータが知られていません。
 つまり、原子力や放射線にかかわる事故は、まさに軍事機密であり、国家にとって莫大な利権の絡む重要な機密事項なのです。したがって、放射線による人体への影響に関しては、ほとんど研究が進められていない、というよりむしろ研究が阻害、ないしは機密にされていると言ってもいいかもしれません。
 放射線被ばくによる人体への影響は今でもわからないことが多いのです。

 従いまして、まず現在の放射線防護のための線量規準を具体的に知ることと、その規準を守っていれば安全だということではなく、 それはあくまでも目安に過ぎないということを理解しておく必要があります。
 放射線から私たちの健康をまもるためには、できる限り人工的な被ばくは 0(ゼロ) がよいのです。

 たとえば放射線管理区域という、一般の人が立ち入りを禁止されている場所は、
    「毎時0.6マイクロ・シーベルト」です。

    1000マイクロSv=1ミリSv  1000ミリSv=1Sv
    1マイクロSv=1000分の1mSv=百万分の1Sv


           μ:マイクロ  m:ミリ

  ちなみに、1年間の一般人の許容線量は、
   1mSv/年=1000μSv/年 です。

   1年間= 365日 × 24時間 = 8760時間 
   1000μSv/年 ÷ 8760時間 = 0.11μSv/時      ということになります。

  このことから、
  一般人の許容線量はおよそ 0.1μSv/h(時)となります。



単位について詳しく学ぶには、
沢渡みかげ氏のHP
兵頭俊夫氏のHP
などを参照してください。

  注1:ただし、これらICRPやICRUなどの組織について、「活動財源は幾つかの関連企業の他、多くの政府機関と国際的組識から提供を受けており、どこの政府にも属さない組織(NGO)である。」(ATOMICA より)
つまり、いわゆる原子力開発を推進している「関連企業・政府機関」からの資金援助で運営されている組織であることから、その科学的公平性中立性について疑問視する意見もあります。


教員用p.18  国際放射線防護委員会の勧告とがん
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 ここにはICRPの勧告が紹介されている。すなわち
「(ICRPは)一度に100ミリシーベルトまで、あるいは1年間に100ミリシーベルトまでの放射線量を積算として受けた場合(低線量率)には、リスクが原爆の放射線のように急激に受けた場合(高線量率)の場合の2分の1になるとしつつも、安全側に立って、ごく低い低線量でも線量とがんの死亡率との間に比例関係があると考えて防護するように勧告している。」
  これは「線量-線量率効果係数(DDREF)」と呼ばれる問題である。この副読本の他の部分では、100mSv以下の低線量被ばくと病気との関係には「明確な証拠はない」という御用学者の言説をことさらにとりあげるが、重要なのは、明確ではないことではなくて、防護することだ。従って、勧告を文字通り受け取り、予防原則に立って、放射線をできる限り浴びないようにするべきなのだ。

  なお、この引用にある「原爆の放射線」とは、いうまでもなく広島・長崎の原爆による被ばくの分析データである。そして上述の「2分の1になる」の部分について、2011年12月28日にNHKから放送された「追跡真相ファイル低線量被曝・揺らぐ国際基準」という番組で、この数値に明確な科学的根拠はなく、むしろ政治的な決定だということが、ICRP関係者の話として明らかになった。そして、その妥当性を巡って議論があることも紹介された。
 この番組が放送されると、原子力ムラの学者達が騒ぎ始めた。原子力ムラの学者達112名が連名で、番組が関係者の発言を正確に翻訳せず、放射線の危険性をことさら扇動しているなどとして、NHKとこの番組の制作者達に抗議し、BPO放送倫理・番組向上機構に提訴するという騒ぎになった。低線量被ばくの影響について、ICRPが過小評価していた舞台裏があばかれてしまったからだろう。       こちらに抗議文

 単純な比較でも、広島・長崎のデータは原爆による一度きりの、大部分は外部被ばくが中心であるのに対して、チェルノブイリ原発や福島原発事故の場合の被ばくは、内部被曝が問題になることであり、しかも広島・長崎のデータは、内部被ばくの影響が正当に評価されてこなかったとの指摘もある。副読本のように断定的に教えることには問題がある。
                       澤田昭二氏『日本の科学者』2011年6月号
 なお、低線量被ばくにより引き起こされる障害は「がん死」だけではない。チェルノブイリ原発事故で被ばくした人々の間で起こっていることが最近ようやく明らかになりつつある。心臓病や脳血管病・糖尿病・免疫力低下など、いわゆる「加齢」にともなう諸症状が報告されているが、まだ、日本には詳しい分析は普及していない。今後の知見が待たれるところである。
                              根岸富男 岩波『科学』2012.3.より


教員用 p.18 ガン死者推定:集団実効線量について
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 教師用解説p.19にICRPの2007年勧告(Publication103)の引用がある。「特に大集団に対する微量の被ばくがもたらす集団実効線量に基づくガン死亡数を計算するのは合理的ではなく、避けるべきである。」という記述は、この副読本のこの p.18 の記述とまっこうから矛盾しているが、この副読本の編集者はそのことに気づいていないらしい。
 すなわち、このp.18の記述で 「仮に蓄積で100mSvを1000人が受けたとするとおよそ5人がガンでなくなる可能性があると推定している。 日本では約30%の人がガンでなくなっているので、この推定を用いると1000人が数年間に100mSvを受けたとすると、ガンによる死亡がおよそ300人から305人に増える可能性があると推定される。」という部分について、このような計算の仕方は避けるべきと言うというのが2007年勧告の主旨である。

 なぜ、このようなちぐはぐな記述がここに見られるのか。ICRPのこの前の大きな勧告は1990年に出されたPublication60である。これを受けて日本の国内制度が整備されてきていたが、2007年勧告については、福島原発事故直前の2011年1月に放射線審議会基本部会が 第2次中間報告を出し、国内制度改定の方向性をようやく示したところである。

 従って、日本の諸制度はまだ、2007年勧告をきちんと消化していない。ましてや、この副読本の編集者である中村尚司東北大名誉教授らは、LNT仮説についてなど、ICRPとも見解を異にする。そういう中で福島原発事故が起き、旧態依然の発想のままこの副読本が制作されたのではないかと私たちは推察する。

 ICRP2007勧告(日本語訳)には、次のように述べられている。
『約100 mSVを下回る低線量域では,がん又は遺伝性影響の発生率は、関係する臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加すると、仮定するのが科学的にもっともらしい。それは、例外はあるが、線量反応データーと基礎的な細胞過程に関する証拠によるものである。したがって,委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は次の根拠に基づく。約100 mSVを下回る線量においては,ある一定の線量の増加は、それに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるという仮定である。この線量反応モデルは一般に“直線しきい値なし仮説又はLNTモデルとして知られている。LNTモデルを採用することは,線量・線量率効果係数(DDREF)について判断された数値と合わせて,放射線防護の実用的な目的,すなわち低線量の放射線被ばくのリスクの管理に対して根拠を提供している。LNTモデルは実用的な放射線防護体系において、引き続き科学的な説得力があるが,このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的あるいは疫学的知見は、すぐには得られそうもない。すなわち、低線量における健康影響が不確実であることから,委員会は,公衆の健康を計画する目的には長期間にわたり多数の人々が受けた、ごく小さい線量に関連するがん又は遺伝性疾患について、仮想的な症個数を計算することは、適切ではないと判断する。』

 つまり、低線量被ばくにおいては、被ばく量からそれによる障がいの発生数を予測するには、現時点ではデータ不足ということ。しかしだからといって、障害が発生しないわけではない。




教師用p.19 しきい値がないと仮定する影響 ↑前のページへもどる

  中学・高校生用の副読本教員用解説:指導上の留意点には「100ミリシーベルト以下の低い放射線量と病気との関係については、明確な証拠はないことを理解できるようにする。」とあります。「明確な証拠」はないにしても、全く関係がないことにはなりません。確率的な影響はあるわけですから、予防原則に立てば、できる限り被ばくを少なくするに越したことはないはずです。
  ICRPも次のように述べています。

ICRP2007 勧告(日本語訳)より
  『約100 mSV を下回る低線量域では,がん又は遺伝性影響の発生率は、関係する臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加すると、仮定するのが科学的にもっともらしい。それは、例外はあるが、線量反応データーと基礎的な細胞過程に関する証拠によるものである。したがって, 委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は次の根拠に基づく。約100 mSV を下回る線量においては,ある一定の線量の増加は、それに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるという仮定である。この線量反応モデルは一般に"直線しきい値なし仮説又はLNTモデル"として知られている。
  LNTモデルを採用することは,線量・線量率効果係数( DDREF )について判断された数値と合わせて,放射線防護の実用的な目的,すなわち低線量の放射線被ばくのリスクの管理に対して根拠を提供している。LNT モデルは実用的な放射線防護体系において、引き続き科学的な説得力があるが, このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的あるいは疫学的知見は、すぐには得られそうもない。
  すなわち、低線量における健康影響が不確実であることから, 委員会は, 公衆の健康を計画する目的には長期間にわたり多数の人々が受けた、ごく小さい線量に関連するがん又は遺伝性疾患について、仮想的な症個数を計算することは、適切ではないと判断する。』
  つまり、低線量被ばくにおいては、被ばく量からそれによる障がいの発生数を予測するには、現時点ではデータ不足ということ。しかしだからといって、障害が発生しないわけではない。


教員用p.15  「しきい値がないと仮定する影響」
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 学習のポイントp.13に「身の回りの放射線による被ばくの例や放射線によってがんになるリスクなどのデータを基に、放射線を受ける量と健康への影響について学ぶ。」という記述があるが、これは要するに「100ミリシーベルト以下の低い放射線量と病気との関係については、明確な証拠がないことを理解できるようにする。(留意点)」ということを教えることがポイントであるようだ。
 しかし、この記述に関しては文科省の姿勢は矛盾している。文科省が各所でその権威を引き合いに出すICRP(国際放射線防護委員会)の勧告を、この副読本自身がこの同じページで引用している。すなわち「(100mSvまでの被ばくの場合でも)、安全側に立って、ごく低い放射線量でも線量とがんの死亡率との間に比例関係があると考えて防護するように勧告している。」
 つまり、ICRPは「100mSv以下の低い放射線量と病気との関係について、比例関係があると考えて、防護策をとるように。」と勧告しているのである。
 この勧告は、どうも文科省は気に入らないようである。 低線量でも比例関係が成り立つという考え方は「しきい値なし直線説(LNT)」と呼ばれるが、文科省や日本の「放射線ムラ」(原子力ムラと同じように、放射線にかかわる利益集団?が存在する。)は、 「しきい値なし直線説」に異を唱えている。しかし、上表に示すようにICRPを含むいくつもの国際的機関が「しきい値なし直線説」を認めている。日本の対応は世界の孤児となりつつある。
 日本では、白血病になった原発労働者が、年5mSv以上、合計40〜50mSvの被ばくで労災と認定された例がある。


教員用 p.15 国際放射線防護委員会ICRPの役割
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 ICRPという組織は「国際的」な組織には違いないが、基本的にはボランティアで運営されているNPOである。そして、日本の原子力研究開発機構を始め、各国の原子力関係団体から多額の寄付を受けて運営されていることも事実である。

WikipediaにはICRPについて次のように書かれている。
 医学分野で放射線の影響に対する懸念の高まりを受けて、1928年にスウェーデンのストックホルムで国際放射線学会(International Society of Radiology; ISR)の主催により開かれた第2回国際放射線医学会議(International Congress of Radiology; ICR)において放射線医学の専門家を中心として「国際X線およびラジウム防護委員会」(International X-ray and Radium Protection Committee; IXRPC)が創設され、X線とラジウムへの過剰暴露の危険性に対して勧告が行われた。
 1950年にロンドンで開かれたICRにて、医学分野以外での使用もよく考慮するために組織を再構築し、現在の名称「International Commission on Radiological Protection; ICRP」に改称された。スウェーデン国立放射線防護研究所の所長であったロルフ・マキシミリアン・シーベルトは1929年にIXRPCの委員に就任し、ICRPに改組後も1958年から1962年まで委員長を務めた。
 IXRPCからICRPに再構築された際に、放射線医学、放射線遺伝学の専門家以外に原子力関係の専門家も委員に加わるようになり、ある限度の放射線被曝を正当化しようとする勢力の介入によって委員会の性格は変質していったとの指摘がある*。ICRPに改組されてから、核実験や原子力利用を遂行するにあたり、一般人に対する基準が設けられ、1954年には暫定線量限度、1958年には線量限度が勧告で出され、許容線量でないことは強調されたが、一般人に対する基準が新たに設定されたことに対して、アルベルト・シュバイツァーは、誰が彼らに許容することを許したのか、と憤ったという。
*:市川定夫 『環境学のすすめ : 21世紀を生きぬくために 上』 藤原書店〈Save our planet series〉、1994年、208頁。
(HP編集者注:ここでは、ICRPに組織変換してから原子力関係の専門家が委員に加わるようになり、性格が大きく変わり、原子力産業が成り立つ範囲に線量限度を据え置き、基準運用の原則を後退させ、規制の低減が見送られるようになったと述べられている。)


 また、これまでのICRPによる被ばくリスク評価の中心となるデータは、広島長崎の原子爆弾の初期被ばくデータが中心で、内部被ばくに関するデータが不足しているという批判がある。チェルノブイリ事故の被ばくデータを正しく反映するためとして、欧州放射線リスク委員会ECRRが1997年に設立され、ICRPの基準をきびしく批判している。

 このようなICRPの性格の延長上の問題として、この副読本中学教師用解説のp.28には次のような記述がある。
「ICRPはこの防護措置について過大な費用と人員をかけることなく、経済的、社会的に見て、合理的に達成できる限りにおいて行うべきであると述べている。」
 この記述は問題である。人命よりも「経済的・社会的」要因を重視するような記述であり、その背景には、ICRPが人々の健康の問題だけを考えて活動している組織ではなくなってきたという歴史的背景がある。
 前述のWikipediaの記述にもあるとおり、1950年に改組されてICRPが誕生して以来、「放射線医学、放射線遺伝学の専門家以外に原子力関係の専門家も委員に加わるようになり、ある程度の放射線被ばくを正当化しようとする勢力の介入によって委員会の性格は変質していったとの指摘がある。」という。事実、1980年代には、ICRPの委員17人のうち13人が各国の原子力行政や原子力産業の委員でしめられていたという。(NHK追跡真相ファイル2012.12.26.放送より)
 有名なALARAの法則(As Low as Reasonably Achiebable)もそうした原子力関係の勢力の影響により、変質していった。(以下再びWikipediaより引用)
 1954年には、被曝低減の原則を「可能な最低限のレベルに」(to the lowest possible level)としていたが、1956年には「実行できるだけ低く」(as low as practicable)、1965年には「容易に達成できるだけ低く」(as low as readily achievable)と後退した表現となり、「経済的および社会的考慮も計算に入れて」という字句も加えられ、1973年には「合理的に達成できるだけ低く」(as low as reasonably Achievable)とさらに後退した表現となった。これらの基準運用の原則は、頭文字を取って、それぞれ、ALAP(1954年、1956年)、ALARA1(1965年)、ALARA2(1973年)と呼ぶ。

 ちなみに、この放射線副読本ではこのALARAの法則については、一言も触れられていない。
教師用p.28-cの注も参照


教員用 p.20 色々な測定器
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 今、福島原発から放出された放射性物質が環境中に散在している状況で、実験室の中のような測定器の話をすることにどれだけの意味があるのだろうか。大きな電気店や、通信販売でも数千円から簡便な放射線測定器が購入できる現在、もっと実用に即した説明があっていいように思う。  中学生・高校生の家庭では、そうした自前の測定器をもっている家庭があるはずである。現実はもっと先へ進んでいる。

 10万円以内で購入できるクラスの測定器は、測定値にばらつきが多い。機会があれば、一度は高額・精密な測定器と比較して、測定値の傾向を把握することをお勧めする。
 簡易型の機器は、相対的な線量の目安として用いるとよい。例えば、A地点よりB地点の方が線量が高いとか、昨日より今日の方が線量が高いとか、測定値を比較することで、高線量が観測されたら、より精密な測定器で再測定するようにすればよい。
 食品の測定に用いられる検査機は、このところずいぶんと価格も下がり、機種も豊富になってきた。数分から、長くても数時間で測定できるものが多く登場してきた。気をつけるべきことは、測定限界値である。一般に高価な機器ほど、また時間をかけるほど測定限界値は小さくなる。測定限界値以下(ND)だからといって、安心できるとは限らない。

 


教員用 p.20 放射線のリスクとベネフィット
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 放射線の医療分野における利用ならば、ここにあるようなリスクとベネフィットを考えることもよいかもしれないが、福島原発事故による現在の被ばく状況は、どう考えてもベネフィットがあるわけではない。被ばくを強いられている福島を中心とする人々はリスクを負うばかりで、ベネフィットを受けていた人たちは、東京電力の電気を利用していた東京をはじめとする関東の人々であったわけだ。
 放射線利用一般の話と、現在の被ばく状況を一緒に話をするべきではないし、そんな議論を持ち出しているということは、この副読本の発行の意味があくまでも放射線利用の普及促進にあることを暴露していることになる。
 また、ALARAの法則でも見られるが、ICRPの議論には、この「リスクとベネフィット論」 と同じように、「最適化」の議論の中で「コスト・ベネフィット論」 が必ず出てくる。原子力産業にとっての基本的関心はコスト・ベネフィット論であろうが、その延長上でリスク・ベネフィット論も議論されている。人の命もお金に換算されてしまっている。


教員用 p.22    中村尚司 東北大学名誉教授 
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 この副読本の編集委員長 中村尚司 東北大学名誉教授 が講師となって、副読本の普及のための教職員対象の研修会が、富山県教育委員会の主催で開かれました。その模様を富山大学の林衛氏がレポートしています。
 市民科学研究会のHPからご覧になって見てください。
 中村氏は、ICRPの勧告とも矛盾した内容を主張していることが、よくわかります。

「放射線教育・リテラシーはこれでよいのか」 林衛 『市民研通信』第137号(PDF)




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