生徒用p.8-7   どのように進めていくのか考えてみよう・・
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   この副読本では中高校生をはじめ、国民に考えることを呼びかけています。また政府はパブリックコメント(パブコメ)を募ったりしていますが、その結果示された民意を日本政府は政策決定に活かしているでしょうか。

■国民的議論の試み
 2012年8月、民主党政権は2030年の原発比率について国民的議論を呼びかけました。2030年のエネルギー構成について、原発の割合が25%、15%、0%の3つのシナリオを示し、どのシナリオを選ぶか、パブリックコメントの募集や全国各地での意見聴取会、無作為で選んだ国民に泊りがけでエネルギーに関する議論に参加してもらい意識の変化を探る「討論型世論調査 Deliberative Polling」、さらにマスコミの世論調査、インターネットでの調査や経済団体やNGO(非政府組織)からの提言といった、複数の手段を通じて国民の意見をさぐりました。
 この時のパブコメには約8万9千件の意見が寄せられ、そのうち87%に当たる約7万6800件が「原発ゼロ希望」でした。また、特に社会の縮図をモデル化したとして注目された「討論型世論調査」では討論が進むにつれて原発ゼロシナリオへの支持が増えていき、最終的には47%に達しました。(右図)

三上直之氏(北海道大学)による解説

 これらの国民的議論の結果を受けて、民主党政権は2012年9月14日に「革新的エネルギー・環境戦略」を決定しました。この戦略の第一の柱の「原発に依存しない社会の一日も早い実現」において「2030年代に原発稼働ゼロが可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」と宣言しました。「国民的議論」が政策決定に反映された一事例といえるでしょう。

■アリバイ工作としてのパブコメ?
 2012年12月の衆議院議員選挙で政権が交代し、自民党安倍政権となりました。安倍政権はエネルギー基本計画を策定するにあたって、2013年12月に資源エネルギー庁が作成した「エネルギー基本計画案」を公表し、この案をたたき台にしてパブコメを募集しました。パブコメの募集期間は12月6日から1月6日までという異例に短い1ヶ月間。しかも年末年始をはさんだ期間で、年末年始は受付していません。年明けの1月6日が〆切りでした。
 このことについて、週刊金曜日ニュースで FoE Japan の満田夏花さんは次のように伝えています。 週刊金曜日 2014年1月17日号

 また、パブコメを積極的には広報せず、問い合せ先すら書いていない。パブコメの送付先となるファクス機は1台しかなく、年末年始は不通。最終日はつながらなかった。市民団体からの再三の要請にもかかわらず、全国各地での公聴会は開催していない。

 このようなパブコメ募集にもかかわらず、約1万9千件の意見が集まったそうです。しかし、その意見の内訳は公表されませんでした。主催の経産省は「今回の基本計画をめぐるパブリックコメントのとりまとめでは『団体の意見も個人の意見も1件。それで数ではなく内容に着目して整理作業をした』として、原発への賛否は集計しなかった。」 (朝日新聞2014年11月12日) ということです。(2014年5月に主な意見の例として2109件の意見が公表されました。)
 朝日新聞の記者が情報公開制度を利用して"個人的に"未公開のすべての意見の公開を求め、分類したところ右のグラフのようになったそうです。
原発賛否で安倍内閣・経産省が秘密にしておきたいこと WEBRONZA2014.11.12.
 経産省の言う、「数ではなく内容に着目して整理した」ということは、当局にとって都合のよい意見・都合の悪い意見を数にかかわらず同等に扱い、都合のよい意見だけをとりあげることのできるたいへん恣意的なやり方です。パブコメが市民の意見・傾向をきちんと反映しているとは言い切れない部分はあるとは思いますが、95%の反対意見を無視して政策を決定するというのでは、何のためのパブコメなのか、「アリバイ工作としてのパブコメ」と批判されても仕方がありません。

■たかがパブコメ、されどパブコメ
 "電子政府"を標榜する政府は、さまざまなパブコメ(パブリック・コメント)を実施しています。まさに"乱発"といってもいいくらいです。2015年4月現在 "電子政府の総合窓口e-Gov" をのぞくと、90件をこえるパブコメが意見募集中です。
 市民が政策策定に直接意見を言うことのできるパブコメは、民主的な社会をつくる上で重要な手立てになるはずです。寄せられた意見にていねいに耳を傾け、単に手続きパブコメ・アリバイパブコメにしないで、生きた仕組みにするために政府の対応が問われています。
 市民にとっても"たかがパブコメ、されどパブコメ"、意見をきちんと政策に反映させるために、あきらめずにパブコメを提出しながら、政府・行政の対応をしっかり見張っていく働きかけが求められいます。  

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