教員用 p.23-26 放射線の利用
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 「放射線の利用」については、とても内容が充実している。教師用解説書でも本文全体が26ページに対して、4ページも割いている。
 いま、中学・高校生に必要なことはこのような「放射線の利用」についての理解を深めることだろうか。福島原発で大勢の人々が被ばくし、高レベルの放射線汚染により、今後数十年間故郷に戻ることが出来ないような状況が発生してしてしまったのが現在の状況である。このような放射線の有用性を説くのは、原子力研究・開発を目指す中学・高校生が一人でも残るように、原子力産業の最後のあがきのようにも見て取ることが出来る。
 日本で原子力開発が始められた頃、広島・長崎の原爆投下により、核・原子力開発に関して日本人はマイナスのイメージをもっていた。このイメージを払拭すべく、初代科学技術庁(当時)長官に就任した正力松太郎が、長官職でありながら私企業の経営者をかねて、その率いる読売グループを中心に、日本のマスコミ界がこぞって原子力技術のバラ色のイメージを普及するための『原子力の平和利用"Atoms for Peace"』の一大キャンペーンを展開したという。当時の情景に、現在のこの文科省の活動が重なって見える。(ちなみに、政界で原子力開発の旗振りをし、日本で初めての原子力予算を提案したのは中曽根康弘である。)
 その科学技術庁というのは、そもそも原子力開発を担うための創設された組織であり、その技術の中核は、今日の高速増殖炉「もんじゅ」に引き継がれている核燃料サイクルである。現在の文部科学省はその科学技術庁と文部省が統合(2001年)されて出来ている。であるからこそ、この放射線副読本でも、放射線の効用をうたう内容がこれだけの分量を占めているわけである。
 しかし、今回の福島原発事故を契機に、これまでの原子力開発そのものを見直す時期に来ている。そのことを文科省は理解していないし、しようともしていないように思われる。
 ただし、今後も原子力・核関連の技術は必要である。だが、それは、これだけの被ばくがもたらされたことの後始末や、また各地の原子力発電所やその関連施設の後始末と、おそらく、十数万年は管理し続けなければならない核廃棄物の安全で確実な管理のためであろう。そうした方向性をきちんと持つべきである。

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