生徒用p.3 植物からの放射線を映し出す ↑前のページへもどる

 この写真は、スイセンに含まれている カリウム40の放射線を写したものだそうですが、 いまこの実験をやったらもっとくっきりはっきりと写るはずです。なぜなら福島原発事故で、 大量に放出された放射性物質は、東日本を中心に広範囲にふりつもっていますので、 おそらくほとんどの植物に水を通じて吸収されているはずだからです。
 現在、東日本でこのような実験をすると、自然のカリウム40による放射線だけでなく、セシウム134・137など人工の放射性物質による放射線も感光して区別がつかないのではないでしょうか。  それほど広範囲に、大量に放射性物質が拡散している現実があり、 そのことを指摘したほうが、放射線を身近に感じることができるはずです。


生徒用p.3 CTによる体の断層撮影 ↑前のページへもどる

 日本人の医療被ばくは、世界で一番です。 医療関係者が安易にCTなどにたよる医療行為が問題になっています。 CT検査による被ばく量は、一般人の年間被ばく限度量1ミリシーベルトをはるかに上回り、 1回で5〜8ミリシーベルトの被ばく量です。
 放射線被ばくによるデメリットと、治療に役立てるメリットを よく考えて利用することが望まれているということを、ここでも指摘するべきです。

日本の医療被ばくは、世界でも飛び抜けている。 【緊急被ばく医療研修のHPより】



生徒用p.7  放射線の性質 透過力 ↑前のページへもどる


 放射線の透過力についての説明で気づくことは、アルファ線やベータ線しか出さない放射性物質が身体の中に入ってしまった場合、身体の表面から放射線検知器をあてても検知されないということです。 ストロンチウム90とか、プルトニウムとか、体内に取り込まれると、身体の外から検知器をあてても、わかりません。内部被ばくしないように、体内に取り込まないように用心することが大切です。



生徒用p.8 電離作用・透過作用・・・放射線の働き ↑前のページへもどる

 ここで述べられている放射線の電離作用や透過作用に関して、そのメリ ットばかりが扱われていて、その危険性への言及が見られません。福島原発事故によりまき散らされた放射性物質が環境中にあふれている現在で、放射線のメリットに特化した内容を扱うことに疑問を感じます。
  電離作用を用いた技術開発にしても、エックス線を用いた医療行為に 際しても、人間が被ばくしたら、細胞のDNAが傷つくことがありますから、 人間の被ばくを最小限に抑える必要があります。被ばく量は微量であると はいえ、その扱いは放射線技師という資格が必要ですし、妊婦など不要 の被ばくは避けた方がよいというような、現在すでに行われている規制も あります。
 日本の医療被ばくは世界最多だという側面からも、高校生に対 する注意の喚起が必要です。 単にメリットだけを扱うのは、問題があります。



生徒用p.9 放射線・放射能の単位 ↑前のページへもどる

 一般の大人たちに説明をするときでも、いちばん理解してもらうのがむずかしいのが、この「単位」です。  ベクレルに関しては、例えば、日本の食品の新基準値(2012年4月より) ではほとんどの食物の基準が1kgあたり100ベクレルで、 これは、WHOの基準が10ベクレル/kgに比べると10倍も甘い基準です等、 というように、具体的に例をあげて説明した方がよりわかりやすいと思われます。
 また、シーベルトに関しては放射線管理区域という、 一般の人が立ち入りを禁止されている場所は、 「毎時0.6マイクロ・シーベルト」です、というような、 具体例が必要です。

    1000マイクロSv=1ミリSv  1000ミリSv=1Sv

    1マイクロSv=1000分の1mSv=百万分の1Sv


           μ:マイクロ  m:ミリ

  ちなみに、1年間の一般人の許容線量は、1mSv/年=1000μSv/年 です。
   1年間= 365日 × 24時間 = 8760時間 
   1000μSv/年 ÷ 8760時間 = 0.11μSv/時 
            ということになります。

  このことから、一般人の許容線量は およそ 0.1μSv/h(時)となります。


生徒用 p.10 物理的半減期・実効半減期
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 物理学的半減期に加え、生物学的半減期を加味したものを実効半減期というが、 実効半減期は物理的半減期よりも圧倒的に短いというような印象を 与える意図が、みえみえの記述になっている。
 ここで記述されている「生物学的半減期」に関しては、誤解が生じやすい。 福島原発事故後の現在では、環境中にセシウム137 (一定期間内ではヨウ素131)などの放射性物質が大量に存在し、 それら放射性物質は環境中に生活する人体に連続的に内部被ばくを引き起こしている。 従って、実験室的にたった一度だけ放射性物質を取り込んだ場合であれば、 記述された「生物学的半減期」で放射線量は半減することになるが、 連続的に取り込んでいる状況では、むしろ放射線量は蓄積していく ことになる。従って、実効半減期もその数字どおりには放射線量は減少していかない。 そうした指摘は不可欠である。
 次のグラフは、ICRPが2011年4月に、福島原発事故を受けて、 日本向けに公表した資料である。大人の場合、毎日10Bqずつの摂取でも、 セシウムは体内に蓄積し、約1年で1400Bqほど蓄積して飽和するすることが示されている。

 


生徒用p.11 身の回りの放射線 ↑前のページへもどる

生物と放射線は共存できません!!
   身の回りに放射線が昔からあったとしても、生物にとって放射線が必要なものではなく、基本的に放射線は生き物に対して害になるものです。

■自然放射線って何?
 原子爆弾や原子力発電所から出る放射線とはちがい、人間が作りだしたのではない放射線を 自然放射線といいます。その中には宇宙や太陽や地中からでてくる放射線や食べ物の中にある物質がだす放射線がふくまれます。そのために「生き物は地球上に誕生したときから放射線を受けている」という説明をよく聞きます。
 この副読本の説明も、「放射線は今初めて接するものではなく、自然の中に元々あるものだから、何も怖がることはない」ということを言いたいようです。  でも下の図を見てください。この図は、地球が誕生してから現在まで、地球にふりそそぐ宇宙からの放射線(宇宙線)や紫外線(しがいせん)と、地球の生き物の関係をえがいたグラフです。



 図中A :生命が生まれたのは生物に害をあたえる宇宙線がとどかない深い海の底でした。

 図中B :生物が浅い海でも生きられるようになったのは、地球上にふりそそぐ宇宙線をふせぐバリアー( ヴァンアレン帯)ができた後でした。放射線が命に危険にならないくらい少なくなったからです。

 図中C :海の中に酸素を作り出す細菌さいきんが生まれると、大気中にたくさんの酸素がたまりオゾン層ができました。植物や動物が海から陸に上がって生きられるようになったのはこのオゾン層が命に危険な紫外線を防ぐようになったためです。

このようにみてみると、生き物は放射線の害がすくなくなり、命に害をあたえない場所にひろがっていったことが分かります。
 今も私たちが自然の中で浴びている放射線の影響で、わたしたちはガンになったり、その他の様々な影響を受けているのです。


生徒用p.11 食品中の放射性物質 ↑前のページへもどる

 食べ物の中に含まれている放射性物質には、カリウム40という物質があります。このカリウムは確かに人間の体にも欠かせない栄養素ですが、放射性カリウム40が、欠かせないわけではありません。放射性のカリウム40は、できれば食べない方がいい物です。
 このような身の回りの放射性物質が原因で、遺伝子が傷つき、人間はがんになったり、白血病になったりしているのです。さらに、人工の放射性物質を、カリウム40などのような自然にある放射性物質以外に余計に取り込む必要はまったくありませんから、人工放射性物質は環境中にない方がいいのです。
 この部分の記述のように、放射性物質がいくら身の回りにあったとしても、それが人間の体には「無用」であるばかりか、基本的に「有害」であるはずなのに、ただ身の回りに「多く存在」していて、「無害」であるかのような印象を読む者に与えようとしている記述があちこちにあります。放射線・放射性物質に対する心理的な障壁をできる限り取り除いて、放射線・原子力への親しみやすさを養おうとする意図がミエミエですので、注意が必要です。


生徒用p.11 自然放射線と人工放射線 ↑前のページへもどる

 基本的に生物は、放射線とは共存できません。 11ページの記述は、あたかも自然放射線というものが、身の回りにあ りきたりにあるものであり、何らおそれるべきものではないということを強 調した内容になっています。それでも、「少量の放射線なら問題はない。」 ということにはなりません。 記述の趣旨として、自然放射線だけでもこれだけあるのだから、それ以 上の人工放射線による被ばくは出来る限り避けるべきである、という姿勢 を高校生には持たせる必要があります。


生徒用p.12 外部被ばくと内部被ばく ↑前のページへもどる

 この記述は、放射線と放射性物質についてなど、混同・混乱が見られ ます。

@:「放射線は、体を通り抜けるため」という部分に関しては、γ線や中 性子線ならば該当します。しかし、ただ通りぬけるだけではなく、途中で 電離作用により細胞のDNAを傷つけることがあります。α線やβ線は、 人間の体に当たると、ほとんど通り抜けることは出来ません。人間の体 の細胞に衝突して、それを破壊するなどして、そこで停まります。

A:「汚染してしまった場合は、シャワーを浴びたり洗濯をしたりすれば 洗い流すことが出来ます。」というのは、放射線ではなく、放射性物質の ことです。両者は異なるものですがら正確に区別して記述することが必 要です。  放射線による被ばくをし、DNAが損傷を受けときにどうなるか、 こちらをご覧ください。

B:外部被ばくに比べて、内部被ばくの方が、放射線被ばくによる身体 への危険性が高いことを記述して、だからこそ、内部被ばくを防ぐ工夫 が必要だというように、記述を立体的にするべきではないでしょうか。単 に内部被ばくはこれこれである、というような定義的な記述に終わらせ るのではなく、放射線の影響が問題になっている今日では、出来る限り 放射線による被害をなくすにはどうするべきかという観点が必要だと思 います。

C:この読本の記述は、従来原子力開発を推進するためという位置づ けの中で制作されてきた副教材の姿勢から、十分な転換がなされたと は思われません。未だに、放射線が日常的に身の回りにあることを強 調し、放射線の影響を過小評価するような論調が目立ちます。


生徒用p.12 自然界から受ける放射線量 ↑前のページへもどる

 このグラフから見るとおり、日本での自然放射線による被ばく量は、 1.48mSvであり、世界平均の2.4mSvよりも少ない。にもかかわらず、年 間の被ばく量は、世界平均よりも多く、その原因は医療被ばくが世界平 均の4倍近くに達しているためである。
 教師用解説書のp.12には、医療被ばくも含めた日本人と世界の平均のグラフが載っている。(右図) こどもたちには、こちらのグラフを参照させた方が、より現実的なのではないだろうか。

 日本の医療被ばくについては、2005.2.10.読売新聞には次のような記事があった。

  日本人のガン、3.2%は医療被ばく(記事の要約)
              英国医療専門誌ランセント報告 2005.2.10.読売新聞
 日本国内でがんにかかる人の3.2%は、医療機関により放射線診断 で被ばくが原因のがん発症と推定されることが、国際的研究で明らかに なった。
  英国オックスフォード大学チームが、15か国を対象に1991−96年調 査
 日本の医療診断によるがん発症がもっとも高いと判明。
 CTの高い 普及度が背景。国内に7920台配置 (2004年)、日本国内での医療診断によるがん発症は7,587件でがん発症者の 3.2%。(英国では0.6%、米国では0.9%)
  日本の検査数は15国平均の2倍近く、がん発症は2,7倍。
  日本:CT検査装置の普及進む。人口100万人当たり64台で最高、 次位のスイスでさえ26台程度。
  検査をすればするほど医師の収入増につながるが、CTの過剰検査 は要注意、  超音波など害のない診断への移行が望まれる。


生徒用p.13 ゆっくりと放射線を受ける場合 ↑前のページへもどる

 これまで長期にわたって低線量の被ばくをした場合の生体への影響は、短期間に被ばくした場合に比べて、 がん死に至るリスクは、ICRPなどにより少なく見積もられてきました。すなわち長期間にわたる確率的影響と呼ばれる問題で、専門的には「線量・線量率効果係数 DDREF 」と呼ばれる問題です。放射線によってDNAが損傷を受けても、生体の修復機能によって修復されるために、短期間にまとめて被ばくした場合に比べて、低線量をゆっくりと被ばくした場合の方が放射線の影響を少なく出来るという考え方にもとづいています。
 しかし、そのICRPにしても、人間の場合の低線量・長期被ばくに関するきちんとしたデータを示すことは出来ないでいます。これは、ICRPなどが主導しているデータは、主に広島/長崎の被ばく者のデータを根拠にしているからです。しかもそのデータでは、原爆投下直後の一時的短期的な外部被爆の被ばく線量をもとに人体への影響を評価したものが中心で、環境汚染によって引き起こされた内部被ばくによる影響についてはきちんとしたデータを集めていないからです。そして、今世界には、この広島/長崎のデータ以上の精密なデータは存在していません。
 これが、現在世界の放射線被ばくに関する研究の限界なのです。というのも、 核と放射能汚染に関する事故は 世界中さまざまな場所で起こっていますが、こと核関連の事故に関しては、国家機密が壁になり、詳細な調査が行われていません。唯一、チェルノブイリ事故後の各地の状況が貴重なデータになるはずですが、そのデータは今まさに収集されつつあるところですし、さまざまな形で事故の影響を過小評価しようという圧力が問題になっています。

 この問題は2011年12月28日にNHKが『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』という番組を放送して以来、 にわかに注目をあびてきました。この番組では、低線量・長期間の被ばくの影響(*注)について、ICRPが科学的根拠ではなく政治的判断に基づいて意図的に低く見積もってきたということが、ICRPの関係者の証言で明らかにされました。
 この番組に対して、「原子力ムラ」の住民たち112人が連名でICRPの内部事情を暴露されたことに腹を立てて、NHKに抗議文を送りつけました。その後、NHKをBPO放送倫理・番組向上機構に訴えるということになっています。

 *注:抗議の一つの論拠として、番組の翻訳では「低線量被ばくの問題」と紹介されましたが、証言者は「線量・線量率効果係数:DDREF」と言っている、という問題だそうです。


生徒用p.13 がんで亡くなる人は300人→305人 ↑前のページへもどる

 この部分の書き方は、次のようなメッセージを含んでいると思われます。
 「100mSvの被ばくで亡くなる人が、1000人で5人増えるだけ、たいしたことはない。」
 このような書き方はあまりに人命を軽視しているのではないでしょうか。亡くなる5人の方の気持ちを推し量ることはないのでしょうか。それも、自分の責任ではなく、たとえば原発事故などで放出された放射能に被ばくして亡くなるとしたら、どんな気持ちになるでしょうか。被ばくさえしなければ命を落とすことはなかったはずです。国策として原発を推進してきた国の機関がこのように言うとしたら、人権侵害以外の何ものでもありません。


生徒用p.13 身の回りの放射線被ばく ↑前のページへもどる

図中の記述 イラン/ラムサール   自然放射線(年間)
       インド/ケララ、チェンナイ(旧マドラス)
                        自然放射線(年間)
           ブラジル/ポコスデカルダス自然放射線(年間)

 これら、放射線量の多い場所をこのグラフの中に、書き込むべき理由がよくわかりません。
 これら自然放射線量が高い場所でも、人々の生活が営まれているということの例として、こうした地名をあげているようですが、だから、これくらいの被ばくは大丈夫だという理屈にはならないはずです。


生徒用p.14 ガンのいろいろな発生原因 ↑前のページへもどる

  がんの諸原因について、放射線もそれら諸原因の一つに過ぎない、と いうような、放射線をことさらに特別視しないで大丈夫という扱い方に違和 感をおぼえます。事故後によく見られた、さまざまなリスクの中で、たとえ ば自動車事故に遭うリスクと比べて、放射線でがんになり死ぬリスクは、 それほど大きくないのに、何故自動車は良くて、放射能は悪いのか、とい うような比較です。そもそも、比較する必然性のないものを、リスク評価と いう同じ物差しで測るような視点は、あまりに功利的すぎて、作為的な印 象がぬぐえません。
  「ウィルス」や「大気汚染」ならともかくも、「喫煙や食事・食習慣」は、い うなれば自己責任の問題です。強制的に有無をいわさず、放射線に被ば くさせられている人たちから見れば、問題をすり替えられているようにも受 け取られることでしょう。「喫煙」について同じように「出来るだけ少なくす ることが大切です」とか、よい「食事・食習慣」をするように心がけましょう、 などと述べることがこの副教材の目的とは思えません。放射線の危険性 について学習することが目的のハズですから、放射線の危険性を相対化 するような作為は、避けるべきだと思います。



生徒用p.15 放射線の利用 ↑前のページへもどる

  CT もPET も、被ばく量はかなり大きいことを指摘するべきです。前述 したように、日本人の医療被ばくは世界一です。また、がんになる人の 3.2 %が医療被ばくによるものであるという報告もあります。高額な器機 が数多く普及したために、医師が安易にCT などに頼る医療行為が横 行しています。「〜 という医療行為が出来る。」という、メリットのみを記 述するのではなく、被ばくというデメリットも記述しなくては、これから発行する副教材としては問題が残ります。

  p.20 に、「コラム リスクとベネフィット」という記述がありますが、抽 象的で理解がむずかしい。CT やPET の記述の部分に、その話を結び つければ、理解はかんたんです。
  すなわち、「胸部・上腹部CT 検査一回のの被ばく量は8〜9mSvに も達し、これは、一般人の年間被ばく量の4倍から6倍に達する。従っ て、重篤な疾病の検査に限定して用いることが大事である。」というよう に。

  また、この分量の副教材にしては、「放射線の利用」の部分が比較的に多い という印象があります。編集者・文科省の意図として、放射線はこれだ け有用であるということを宣伝したいという意図が見え見えの内容にな っています。これでは、原子力開発推進を行ってきた従来の政策に対す る反省がまったく見られません。



生徒用p.15 農業・・・・害虫防除・品種改良 ↑前のページへもどる

  生物に放射線を当てて、突然変異を起こし、品種改良を行う技術に関しては、 自然の生態系をそこねることの無いように、慎重に行うことが求められています。 遺伝子組み換え食品と同じで、放射線照射により人為的に遺伝子改変された生物が、 自然界に放たれた時、自然の生態系の中での影響は、見通すことが困難という側面もありますから、 いいことばかりではありません。   



生徒用 p.24 医療分野 <診断:PET検査>
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 「核医学の検査では、微量の放射線を出す化合物を体内に投与して、体内から出てくる放射線を捉えて診断する方法もある。」
 この検査方法は PET検査:Positron Emission Tomographyという。
グルコース(ブドウ糖)の分子の一部に放射性アイソトープを組み込んだトレーサーと呼ばれる物質を点滴で体内に注入し、がん細胞が活発にそれらブドウ糖を集める性質を利用して、ガンマ線検出器でその場所を特定する。ガンの早期発見に有効とされている。現在、国内では数10カ所の病院などで、この検査を受けることが出来、一部健康保険も適用されることになったため検査機関は増えている。
 しかし、放射性アイソトープを供給するために、1台数億円はするサイクロトロンが必要である上、検査機器も高額で、受診料負担は10数万円にのぼる。集客のために夫婦割引や、旅行パックやゴルフパックに組み込んだりするサービスや、中国など近隣諸国の富裕層を狙った日本ツアーに組み込まれたパックも発売されているという、問題の多い高額医療である。
 放射線被ばく量は大きく、PETとCTを一体化したPET/CT装置を用いた検査が標準的だが、1回の検査における放射線被曝は23〜26 mSvにのぼり、低レベル放射性廃棄物もだされる。
 リスクとベネフィット、さらにはコストとベネフィットをしっかり吟味して考えた方がよい。


生徒用p.18 環境モニタリング ↑前のページへもどる

  福島原発事故の際には、周辺の放射線の値が、避難すべき人々に 伝えられなかったことが問題ではないでしょうか。文科省がSPIEEDI のデータを公 表しなかったりしたことの責任が問われるべきではありませんか?。測定はしていて も、単にデータとして残すためだけに測定するのではなく、どのようにし て住民に対してそのデータをすばやく提供するかが問題のはずです。   この部分の記述は、事故前とまったく変わらず、何事もなかった、平 常・日常のことを記述しているにすぎないので、およそ現在の状況には ふさわしくありません。



生徒用p.18 地面に落ちた放射性物質 ↑前のページへもどる

この記述は問題が大きい。
  放射性物質は地面に落下したとしても、無くなったわけではありません。 「地面」にあるわけですから、「それまでの対策をとらなくてもよくなる」と は思えません。土壌に混じっているのであれば、土埃などと一緒に舞い上 がることも考えられますから、防護服を着たり、マスクをつけたりする対策 は、依然として続けるべきです。また、身長の低いこどもは大人よりも地 面に近く、地面からの放射線の影響を受けやすいはずです。「対策をとら なくてもよくなる」というのは、大人目線の考え方です。
  なぜこのような記述をするのかを考えると、放射線・放射性物質は人体 に対して影響が少ないと考えるようにしむけるためだろうと思われます。



生徒用p.18 退避や避難の考え方 ↑前のページへもどる

 福島原発事故の際に、「パニックを防止する」ということを名目にして、必要な情報が住民に伝えられなかったことの反省は一体どうなっているのでしょうか?
 例えば、放射性ヨウ素がこどもたちにとっては危険なレベルであったことを後になって鈴木元:原子力安全委助言メンバーが公表しました(8.18.朝日新聞)。彼は何回も原子力安全委員会に通知したそうですが、彼の報告は公にはなりませんでした。自治体や県や国も正しい情報を伝えませんでした。そればかりか、事故当時ヨウ素剤を配付し、飲ませようとしたことを、まるでデマのように扱ったメディアがいくつもありました。(読売新聞2011.3.15、2011.3.21) また、ヨウ素剤の服用は必要ないと公言した、御用学者(例えば山下俊一氏:福島県放射線リスク管理アドバイザー2011.3.21.)もいました。
 こうしたことの問題点の指摘・反省なしには、今後の防災計画は立てられないはずですが、こうしたことについての真剣な検討は、未だかつて聞いたことがありません。原子力施設や自治体・政府に対して、緊急時に放射性物質の拡散状況を、住民にどう知らせるか、連絡方法を確保させなければなりません。さらに、その情報の正確さを保証するような仕組みを工夫しなければなりません。
 右の図は、原子力施設の事故が起こったときに、逃げる方向を示したものです。そのときの風向きを測り、風下に対して、直角の方向へ逃げなければなりません。このような具体的なアドバイスが不可欠です。


生徒用p.19 色々な放射線測定器 ↑前のページへもどる

 今、大きな電気店や、通信販売でも数千円から簡便な放射線測定器が購入できますから、もっと実用に即した説明があっていいように思います。児童生徒の家庭では、そうした自前の測定器をもっている家庭があるはずで、現実はもっと先へ進んでいます。

■10万円以内で購入できるクラスの測定器について注意事項。
 このレベルの測定値にばらつきが多い。機会があれば、一度は高額・精密な測定器と比較して、測定値の傾向を把握することをお勧めします。簡易型の機器は、相対的な線量の目安として用いるとよいでしょう。例えば、A地点よりB地点の方が線量が高いとか、昨日より今日の方が線量が高いとか、測定値を比較することで、高線量が観測されたら、より精密な測定器で再測定するようにすればよいと思います。

■食品の放射能測定
 食品の測定に用いられる検査機は、このところずいぶんと価格も下がり、機種も豊富になってきました。数分から、長くても数時間で測定できるものが多く登場してきました。  気をつけなければいけないことは、測定限界値です。一般に高価な機器ほど、また時間をかけるほど測定限界値は小さくなりますが、測定限界値以下(ND)だからといって、安心できるとは限りません。

生徒用p.20 コラム リスクとベネフィット ↑前のページへもどる

  この記述は、一般論的かつ抽象的で理解がむずかしい。CT やPET の記述はもう少し 具体的にすればわかりやすいと思われます。
  すなわち、「胸部・上腹部CT 検査一回のの被ばく量は8〜9mS vに も達し、これは、一般人の年間被ばく量の4 倍から6 倍に達する。従っ て、重篤な疾病の検査に限定して用いることが大事である。」というよう に。
  この副教材は、「放射線の有用性=ベネフィット」を強調したい人たちが中心になって編集しましたから、リスクの側面はあまりしっかりと記述されていません。 ですからこのような「奥歯にものが挟まった」ような書き方になっています。そのあたりを割り引いて読むべきでしょう。


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